出版. PRIVATE PUBLICNESS

2020Seoul, Korea

LIXIL Column
biz-lixil.com/column/urban_development/sh_report003






























 

生活的な開放感が生み出すプライベートな公共性

「プライベートな公共性」──住まいと都市の間、その境界にあること
都市と住まいは、それぞれが両極に位置するのではなく、リバーシブル・ウェアのように、お互い違う性質の世界を持ちながらも、その間にひとつの枠組み(構造体)を持って共存する生態系だと言える。これは街並みの表と裏のように、どちらか一方が独立して存在することはできず、むしろお互いのために存在し合っている。私たちがまちで採集したものは、家の中でなく外から観察した第3者の観点から個人の住まいを把握した、家と都市の接点で起きている風景である。住まいから社会に延長されており、誰でも見ることができる視覚的開放感を持ちながらも、誰も入れない私的な場所でもある。

閉鎖される公共性
近代以降、まちのなかに人々が自然に出会える公共の場所がなくなり、今では見慣れた公園、劇場、図書館、美術館、カフェなど「パブリック・スペース」と言われる場所が多く生まれた。当たり前のように日常と都市が両分され、その接点としてジャンル化されたパブリック・スペースを私たちは疑いなく受け入れてきた。いかに機能的にし使いやすくするか、アクセスしやすく集まりやすくするか。いかにもっと活気のある公共性を持った場所をつくろうかと悩みながら、人が集まることを大切にし、多くの人が共有できる場所をつくろうと努力してきた。
しかし、現在COVID-19のパンデミックを防ぐための都市的政策により、公共空間は部分的あるいは全体的に閉鎖され、公的な役割を失いつつある。ひいては、人が集いともに過ごすことに対するさまざまな制約を受けているのが実情である。 そのため、家の外に溢れ出していた応接室、茶室や、業務空間などが自然に家の中に戻り始めた。家の役割が拡大し、都市の役割は縮小する現象だと言えるだろう。
 

「勘」から始まる共有
生活感を感じられる風景をつくっているものは、元々私的なものだが、外に出ていることで公共的な性格を持つようになり、一種の共有が始まっているのではないか。直接会う行為が起こらなくても、家具、建具、モノなどは、そこで生活している姿を想像させたり、人の気配を感じさせる役割をする。例えば洗濯機や室外機が回っていれば家の中に人がいるとわかり、植木鉢が並んでいれば植物好きの人が住んでいると想像できる。また、そのおかげで道で緑地を提供することもできる。 換気口からのにおいですらも生活感を感じられるモノのひとつになり得る。縁側や庇、そこに置いてあるモノたちを通じて、あたかも生活が家の外に出ているかのように、私たちは他人の住まいの中に入っているような気がすることもある。それがどのような意図と構造で構成されているのか、どのような役割を果たしているのかを理解し、それが持つ公共的な性格が都市の公共性を生み出す素材になり得ることについて考えたい。

公共性のON・OFFスイッチが生まれた社会──1/2の公共性
ソーシャルディスタンスの一環で、カフェは座席数が1/2に減った。 屋外の運動する場所も同様である。COVID-19以降、公共性の大きさが1/2になったのではないかと思う。すなわち、空間の大きさではなく、公共性という感覚の大きさが1/2になったことを意味する。そこで私たちは、まち単位の公共性より、もっと多くの数と機会を持つ個人単位の公共性を考えたい。
韓国では、COVID-19の感染者数の動向によって、5段階(1、1.5、2、2.5、3)の「物理的距離を確保」するマニュアルに基づいていた防疫政策が行われている。公共施設を中心に人が集まる施設を対象として、段階ごとに利用者数を調整するシステムである。それは、人が集まることのON・OFFを調節するスイッチのようである。調節された公共性は、都市という領域内でつくられたジャンル化された公共空間だからこそ可能だと思う。
だとすると、これからはどのようなかたちの集いが増え、どのような公共の空間を必要とされるのだろうか。家の中にどのような空間を設けるのか、まちにどのような施設を設置したりするのかではなく、個人の住まいと都市との接点で公と私の関係、社会の公共性というのを改めて考え直す必要がある。私たちがまちで見つけた素材は、その接点に置かれ、両者の間を自由に行き来している。そこで住まいからはみ出た領域がつくる公共性を、「プライベートな公共性」と名付けた。見つけられた素材を再構成し、意味付けする過程の中で、新しいかたちの集いに対応できる家の公的な空間、小さな公共性が起こる場をつくることができると思った。パブリックスペースがOFFになっている現在、代案的な役割としてはららく可能性があると思う。
 

 

出版. PRIVATE PUBLICNESS

 
date 2020.12
type housing + public space
status research
location seoul, korea
photo o.heje architecture
publicationweb published